東京地方裁判所 平成10年(ワ)11377号 判決
原告 株式会社セブン-イレブン・ジャパン
右代表者代表取締役 工藤健
右訴訟代理人弁護士 宮崎乾朗
同 大石和夫
同 林泰民
同 玉井健一郎
同 板東秀明
同 関聖
同 田中英行
同 塩田慶
同 松並良
同 河野誠司
同 下河邊由香
同 宮原正志
同 岡本哲
被告 選択出版株式会社
右代表者代表取締役 飯塚昭男
被告 飯塚昭男
右両名訴訟代理人弁護士 松井一彦
同 中川徹也
同 金森仁
同 亀井正照
主文
一 被告らは、原告に対し、連帯して一八〇万円及びこれに対する被告選択出版株式会社については平成一〇年六月一六日から、被告飯塚昭男については平成一〇年六月一七日から、それぞれ支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告のその余の請求をいずれも棄却する。
三 訴訟費用は、これを五分し、その一を被告らの、その余を原告の各負担とする。
四 この判決は、原告勝訴部分に限り、仮に執行することができる。
事実及び理由
第一原告の請求
一 被告らは、連名で原告に対し、別紙一謝罪広告目録記載のとおりの謝罪広告を、四段抜一三センチメートル幅で、見出し部分は一号活字(ゴシック)、本文の部分は四号活字(正楷)をもって、大阪、東京、中部、西部及び北海道で発行される日本経済新聞の朝刊社会面及び雑誌「選択」に各三回掲載せよ。
二 被告らは、原告に対し、連帯して一二〇〇万円及びこれに対する被告選択出版株式会社については平成一〇年六月一六日から、被告飯塚昭男については平成一〇年六月一七日から、それぞれ支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
第二事案の概要
本件は、原告が、被告らの発行する雑誌において、原告の商法を批判する記事が掲載され、これによって原告の名誉が毀損されたとして、被告らに対し、不法行為に基づく損害賠償の支払及び謝罪広告の掲載を求めた事案である。
一 争いのない事実等(特記しない限り当事者間に争いがない。)
1 当事者
(一) 原告は、昭和四八年一一月に創業した、コンビニエンスストア・チェーン事業を行う株式会社である(以下コンビニエンスストア・チェーンのことを「コンビニ」ともいう。)。
(二) 被告選択出版株式会社(以下「被告会社」という。)は、雑誌、書籍の編集、企画、制作、発行を目的とする株式会社であり、月刊雑誌「選択」を出版している。
被告飯塚昭男(以下「被告飯塚」という。)は、被告会社の代表取締役であると同時に、雑誌「選択」の編集人であって、右雑誌の編集方針及び掲載記事の内容・選択につき決定権限を有している者である。
2 被告らは、平成一〇年五月一日発売の雑誌「選択」五月号の記事において、「『セブン-イレブン商法』残酷物語」の見出しの下に、二ページにわたる記事を掲載した(以下「本件記事」という。)。
また、右「選択」五月号の広告は、日本経済新聞に「『セブン-イレブン商法』残酷物語」というタイトルで掲載された。
3 本件記事中には、別紙二記載の(一)ないし(九)の各記述が存在する(以下これらの記述を「本件記述(一)」などという。また本件記述(一)ないし(九)を総称して「本件各記述」という。)。
二 争点
1 本件記事により原告の名誉は毀損されたか。
(原告の主張)
本件記事中の本件各記述は、真実に反した事実を摘示して原告の名誉を毀損している。
(被告らの主張)
原告の主張は争う。
2 本件各記述が公共の利害に関する事実に係るものか、またその目的が専ら公益を図ることにあったか。
(被告らの主張)
原告は、コンビニ業界で三指に入る東証一部上場企業であり、その経営実態や動向は国民生活に重要かつ密接に結びついている。本件記事の内容に照らしても、公共の利害に関する原告の情報を専ら公益を図る目的で掲載したものであることは明らかである。
(原告の主張)
本件各記述の事実は虚偽と歪曲に満ちたものであるから、公共の利害に関する情報でもないし、公益を図る目的があるなどとは到底いえない。
3 本件各記述の摘示事実はその重要な部分において真実であるといえるか、あるいは、右事実を真実であると信じることにつき相当の理由があるといえるか(以下各項ごとに掲げる争点は、本件各記述についての事実に関する主争点を表す。)。
(一) 本件記述(一)について
日経ビジネス誌の記事(甲四、以下「日経ビジネス記事」という。)において、(1) 消費者好感度ランキングにおいて、原告の順位はローソン、ファミリーマートより劣り、総合四位である旨の記載、(2) 利用度ランキングにおいて、原告の順位は、コンビニ大手三社の中で最低である旨の記載がそれぞれあるか。
(被告らの主張)
本件記述(一)の内容は真実である。また、仮に真実でないとしても、これを真実と信じたことにつき相当な理由がある。
(1) 本件記述(一)は、日経ビジネス誌が実施した消費者調査による<1>消費者好感度ランキングと<2>利用度ランキングの二つの引用である。右日経ビジネス記事は、小売業等の三つのジャンルについて、業種別総合ランキングを作成し、一方で消費者を対象としたフランチャイズチェーンの利用度及び好感度を調べたランキングを作成した構成になっており、本件記事は、消費者の評価という観点で論を進め、日経ビジネス記事のうち、消費者を対象とした好感度及び利用度のランキングを引用したものである。
引用した日経ビジネス誌の日付につき、本件記事上誤記があることは認めるがこれはさ細なことであり、これにより原告の社会的評価が低下するものではない。
また、「総合」四位とは、好感度ランキングの総合四位と読めるのであり、原告のいうように業種別総合ランキングの四位と読むのは曲解である。
(2) 原告は、日経ビジネス記事上の消費者調査の調査方法について引用していないので引用が不正確であり、真実性に欠ける旨主張するが、ある調査記事の結論を引用する際に、その統計上の問題点や調査方法を引用しなければならないという当然の義務はない。しかも、全国にまたがって事業を展開している各企業がそれぞれ地域性を有することはいわば常識であり、読者もそれを前提に全国レベルでの調査結果であると認識するものであるから、統計上の偏差や調査方法を引用しなくても読者をミスリーディングすることはない。また、被告らは全国展開している大手スーパーの対比を主眼に記事を構成しているのであり、その際各企業の東京、大阪、名古屋の各地域の出店内訳まで原告に問い合わせる当然の義務はない。
(原告の主張)
被告らの主張は否認する。
本件記述(一)は、原告の順位が、コンビニの中で順位が四位という印象を与えるが、日経ビジネス記事上、原告の業種別総合ランキング上の順位は二位であり、コンビニ大手三社の中で最低ということもない。日経ビジネス記事上、原告の順位が四位となっているのは、フランチャイズチェーン一般についての消費者の好感度ランキングである。
加えて、本件記述(一)では日経ビジネス記事の掲載号の日付が誤っており、また、日経ビジネス記事は、その記事に掲載された調査につき、調査方法及び当該調査方法による統計上の偏りがあることを明らかにしているが、本件記述(一)では、これを指摘していない。実際に、日経ビジネス記事の調査方法では、コンビニ大手三者の出店状況からして、統計上の偏りが生じている。
このように、被告による日経ビジネス記事の引用は不正確であり、真実に反しているし、真実であると信じるにつき相当な理由があるともいえない。
(二) 本件記述(二)について
流通専門誌のアンケート調査で、原告の店舗につき、「おでん臭い」、「接客が横柄」、「暴走族のたまり場になっている」などの結果が出たか。
(被告らの主張)
本件記述(二)の内容は真実である。また、仮に真実でないとしても、これを真実であると信じたことにつき相当の理由がある。すなわち、本件記述(二)の内容は、雑誌「激流」一九九五年一〇月号四六頁の座談会記事の中で、流通専門会社の行った調査結果として紹介されている。同様の調査は、同誌以外の流通専門誌でも独自に行われており、そのような指摘がされている。また、本件記事の筆者が流通専門記者として平成五年ころから平成八年ころにかけて、四、五か所の調査機関から依頼を受けて、延べ約五〇〇人に対し自ら行ったアンケート調査において、原告のチェーン店に対し「おでん臭い」、「接客が横柄」、「暴走族のたまり場になっている」との指摘が数多く出されており、この結果も本件記事の根拠となっている。
(原告の主張)
被告らの主張は否認する。
被告らの指摘する雑誌「激流」は三年も前の記事であり、このような古い記事を資料としたことは不当であるし、「以前にもある流通専門誌が同種の調査をしたが」というのは、最近の記事を資料としたとの印象を与える。また、本件記述(二)によれば、消費者のアンケート調査に基づく記事が存在したかの印象を受けるが、雑誌「激流」の記事上、本件記述(二)の内容は、匿名座談会の匿名発言の一部であるにすぎない。被告らは、雑誌「激流」の記事中にある原告に対するプラスイメージの部分は一切取り上げていないし、右記事には、「接客が横柄」、「暴走族のたまり場になっている」との記載はない。
(三) 本件記述(三)について
都内セブンイレブン中規模オーナーが本件記述(三)にあるような発言をしたか。発言した場合には、信頼できる情報であったか。
(被告らの主張)
本件記述(三)の内容は真実である。また、仮に真実でないとしても、これを真実と信じたことにつき相当の理由がある。
本件記述(三)の摘示事実は、本件記事の筆者がセブン-イレブンオーナーに平成一〇年四月三日、同月一一日に直接取材し、その内容を正確に記事にしたものである。オーナーについての同趣旨の指摘は、「アエラ」昭和六三年五月三一日号の記事にもある。また、元オーナーが原告を不法行為で訴えた訴訟(東京地方裁判所平成八年(ワ)第二三一三四号損害賠償請求事件)もあり、元オーナーの夫婦が早朝から深夜まで働いて人件費を節約しなければ利益を上げる方法がなかった実態が認定されている。
本件記事の筆者は、平成八年ころからイトーヨーカ堂や原告をウオッチしてきたもので、原告らに関するあらゆる新聞記事をフォローし、複数のイトーヨーカ堂関係者、同社元幹部、元コンビニオーナーらに繰り返し取材している。また、本件記事後、筆者は約一〇人の現職オーナーと連絡を取り本件記事のオーナー発言が真実であることを改めて確認している。
(原告の主張)
被告らの主張は否認する。
本件記述(三)の条件に該当する既存のフランチャイズ店の五〇〇メートル先に新店ができた例は練馬富士見台店だけであるところ、同店は、新店出店以前に日販六〇万円であったこともないし、新店出店による影響を受けたこともない。また、同店オーナーは本件の取材を受けたことがない。数多くのオーナーたちは、十分な余暇の時間を持ち、各人各様のホビーライフを楽しみつつ、充実した毎日を過ごしている。なお、中規模・大規模の区別は原告のフランチャイズ店にはない。
被告らのいう「アエラ」の記事は一〇年以上前の記事であって、現在のオーナー状況の論拠にはならない。また、被告らのいう訴訟の原告は元オーナーの妻であり、特殊事案で一般的な状況を示す根拠とはならない。右訴訟の第一審は本件原告が全面勝訴して、現在控訴中である。
(四) 本件記述(四)について
原告は、原告のフランチャイズ店舗が日販五〇万円以上の実績がなければスクラップ(閉鎖及び店舗移転)の対象にするか。
(被告らの主張)
本件記述(四)の内容は、右記述中に登場するオーナーからの伝聞情報であり、真実である。
本件記述(四)におけるスクラップの意味は、右記述から明らかなとおり、閉鎖及び店舗移転の意味で使用しており、これは一般の流通業界での用法にも合致している。本件記事の趣旨は、日販五〇万円以上の実績がなければ採算がとれず、通告に等しい勧告がなされるということであり、原告にそのような内部規定があるということではない。
(原告の主張)
被告らの主張は否認する。
本件記述(四)中に、「スクラップ(閉鎖及び店舗移転)」との記載があることは認めるが、一般的にも、業界用語としても、スクラップという語には店舗移転との意味は含まれておらず、店舗移転を指す場合には、「スクラップアンドビルド」の用語を用いなければならない。
本件記述(四)は、原告において、足切り通告され、スクラップに追い込まれるシステムがとられているとの趣旨で読まれることは明らかであるが、そのような内部規定はない。
(五) 本件記述(五)について
(1) 原告のフランチャイズ店について、閉店勧告を受ける店主は一〇〇店を優に超えるか。
(2) 「家族四人でどうにか食える程度で、店の拡張は夢のまた夢」というのが原告フランチャイズ店の平均的なオーナーの姿か。
(被告らの主張)
本件記述(五)の内容は真実である。また、仮に真実でないとしても、これを真実と信じたことにつき相当の理由がある。
(1) (1) について
多くのオーナーからの取材と、平成一〇年二月期決算における原告発表の数字に基づいている。
(2) (2) について
筆者が日常的に原告チェーン店のオーナーから聴取していた内容である。本件記述(三)、(四)に登場するオーナーからも同様の話を聞いているし、乙第二号証の裁判における原告も同様の主張をし、判決の認定もこれを裏付けている。
(原告の主張)
被告らの主張は否認する。
(1) (1) について
閉店勧告という言葉が、閉店及び店舗移転を含むと解することはできない。
前述のとおり、原告には、機械的な基準に基づく閉店勧告の仕組みはない。また、原告チェーンにおける平成九年三月一日から、同一〇年二月末日までの一年間の解約・閉店は合計六二店であり、そのうち契約満了によるものが一七店であった。これら解約・閉店はいずれもオーナーとの話合いによる合意の上で行われたものであり、一方的な閉店勧告のようなものはない。
(2) (2) について
「家族四人でどうにか食える程度」との表現は極めて主観的で具体性に欠けるが、少なくとも経済的に相当苦しい状態を示しているところ、原告の標準的な経営タイプのオーナーは余裕のある暮らしをしている。また、乙第二号証の判決の事実認定は明らかに誤っている。
(六) 本件記述(六)について
本件記述(六)において掲げられた原告の内部資料によるオーナー収入の試算で取り上げられたケースが、原告のフランチャイズ店において標準的なケースであるといえるか。
(被告らの主張)
本件記述(六)の内容は真実である。仮に真実でないとしても、これを真実と信じたことにつき相当の理由がある。
右記述は、原告でいうCタイプ(全く資産も商権もない一般の標準モデル(いわゆる一般の脱サラオーナー向け))の数字を掲げたものであり、本件記事はオーナー説明会で配布された資料(乙五)を引用したものである。「標準的」かどうかは、単に数的優位のみで決定されるものでなく、一般的読者にとって身近かどうかが判断の基準となるものであるところ、雑誌「選択」の読者層は営業用不動産や商権を有しない場合が多いので、Cタイプが標準ケースとなる。一般のオーナー説明会で右資料が配布されていることからも、Cタイプが一般向けの標準タイプであることがわかるし、右資料を基に本件記述(六)を執筆したものであるから、これを真実であると信じたことにつき相当な理由があるといえる。なお、ロイヤルティという用語はフランチャイズ契約で通常使用されている。
(原告の主張)
被告らの掲げる数値がCタイプオーナーの試算における数値であることは認めるが、その余の被告らの主張は否認する。
Cタイプ(店舗用土地建物を原告が用意するタイプ)は原告チェーン全体の三割程度であって、標準的なケースではない。全体の約七割を占める最も標準的なAタイプ(店舗用土地建物をオーナーが用意するタイプ)のモデル試算では、店舗年商が二億二〇〇〇万円の場合、本部チャージは二七〇〇万円余り、オーナーの年間収入は一九〇〇万円余りとなる。
被告らが引用するパンフレット(乙五)には、表紙にCタイプオーナー説明会で用いられるものであることが明記されている。また、原告では、ロイヤルティとは言わず、チャージという言葉を用いている。
(七) 本件記述(七)について
(1) 原告がアメリカの会社であるサウスランド社を買収した直後に、日本流の「セブン商法」導入への反発やロイヤルティの多額さなどを理由として、カリフォルニアやシカゴのオーナーたちがそれぞれ一〇億ドル規模の損害賠償裁判をサウスランド社、イトーヨーカ堂、原告の三社を相手に起こしたか。
(2) 右訴訟に関連して、イトーヨーカ堂の伊藤名誉会長が訪米してオーナーたちの説得に当たったか。
(被告らの主張)
本件記述(六)の内容は真実である。仮に真実でないとしても、これを真実と信じたことにつき相当の理由がある。
(1) (1) について
「週刊東洋経済」一九九五年五月二七日号(乙六、以下「東洋経済記事」という。)において、買収後のオーナーらの不満が指摘されており、右記事を引用したものである。アメリカの両訴訟の請求原因にも同趣旨の記載があり、東洋経済記事の正確性を裏付けている。
また、被告選択出版の記者が右記事の正確性を確認するため平成一〇年四月二二日、原告の広報室総括マネージャーに対し、アメリカでの訴訟の経緯、内容について質問をしたが、明確な回答が得られず、事実上前記記事の内容を真実と認めたものと理解した。
サウスランド社が原告に買収されてから二年半後の提訴を、「買収直後」と評価するのは、買収の効果がでるタイムラグを考慮すれば自然である。
(2) (2) について
同事件の解決に伊藤名誉会長が尽力したことについては、執筆者が流通他社から取材をして得た結果を記載したものである。
(原告の主張)
被告らの主張は否認する。
(1) (1) について
原告がサウスランド社を買収したのは平成三年三月であるところ、アメリカにおいて原告が訴えられた事件は、一九九三年(平成五年)八月にカリフォルニア州地方裁判所に提起されたOFFF訴訟と一九九四年(平成六年)四月五日にシカゴ連邦地方裁判所に提起されたスパラノ訴訟(これらの訴訟をまとめて「両訴訟」という。)であり、買収直後とはいえない。
これら両訴訟は、日本流の「セブン商法」の導入とは全く関係がなく、原告がサウスランド社を買収する以前からのサウスランド社の行為を争点として提起されたものである。また、両訴訟における請求額は、OFFF訴訟が一億ドルを下らないとされ、また、スパラノ訴訟は一〇億ドル以上とされており、本件記述(六)の一〇億ドル規模の損害賠償との記述も不正確である。
被告らは、原告に何らの問い合わせすら行わずに事実に反する記事を書いたものである。他誌を引用し、あるいは資料としたとしても、その記載内容の正確性については被告ら自身が調査・確認する義務がある。
(2) (2) について
伊藤名誉会長がオーナー説得に当たった事実はない。
(八) 本件記述(八)について
原告では平成一〇年二月期決算において、年間一六〇店以上をスクラップしているか。
(被告らの主張)
本件記述(八)の内容は真実である。
右記述中のスクラップという語の意味は、前記(四)項と同様である。
平成一〇年二月期決算時における記者会見での原告の鈴木敏文会長の回答に、平成九年二月から同一〇年一月までの一年間の閉鎖及び店舗移転の店数が一六〇店に達したことが含まれていたので、これを引用したものである。
(原告の主張)
被告らの主張は否認する。
スクラップという語の用法については前記(四)項と同様である。特に、本件記述(八)では、本件記述(四)に存在した「(閉店及び店舗移転)」とのかっこ書きすらない。
被告らのいう平成一〇年二月期決算時の記者会見の回答は、原告会長ではなく、原告常務取締役の氏家忠彦が行ったものであり、しかもその内容は「今年度は、立地移転が一〇一店、解約・閉店が六二店、うち契約満了によるものが一七店あった」と回答したものであり、引用としても誤っている。
(九) 本件記述(九)について
本件記述(九)は論評として正当か。
(被告らの主張)
本件記述(九)は論評として正当なものである。
本件記述(九)は、本件記事の基となった資料や取材を通じて、筆者が所見をまとめたものであり、本件記事全体に対する総括的論評である。客観的な事実報道をするとの姿勢から出た記事であり、悪意に基づくものではない。
本件記事執筆においては、原告に取材していないが、これは、既に複数の証拠が合致していたこと、取材源の秘匿が図れないことをおそれたことからである。
(原告の主張)
被告らの主張は否認する。
本件記述(九)における論評の前提となる事実がいずれも事実無根、あるいは事実を著しく歪曲したものであるから、それらを総括しても論評などとは呼べない。右記述は、客観的事実に基づかない悪意にみちた意見にすぎないものである。
4 不法行為が成立する場合には、その損害額及び名誉を回復するのに適当な手段の要否
第三争点に対する当裁判所の判断
一 争点1(本件記事の名誉毀損性)について
1 本件記述(一)及び(二)について
甲第二号証によれば、本件記述(一)には、「日経ビジネス」誌(本件記述(一)では、二月二八日号となっているけれども、当該「日経ビジネス」誌が二月二三日号であったことは当事者間に争いがない。)が実施し、同誌に掲載した消費者調査によると、原告の消費者好感度ランキングでの順位はライバルであるローソン、ファミリーマートより劣り、総合順位で四位であり、利用度ランキングでもコンビニ大手三社の中で最低の順位である旨の事実の摘示が、また、本件記述(二)には、以前のある流通専門誌による調査によると、原告の店舗につき、「おでん臭い」、「接客が横柄」、「暴走族のたまり場になっている」といった内容のアンケートの束ができた旨の事実の摘示が存在することが認められる。
これらの記述によれば、一般の読者は、原告の店舗がライバル会社に比べ、消費者から高い評価を受けていないとの印象を受けるから、本件記述(一)及び(二)は、原告の社会的評価を低下させているといえる。
2 本件記述(三)ないし(六)及び(八)について
甲第二号証によれば、本件記述(三)ないし(六)及び(八)には、その前後を通して読めば、原告のフランチャイズ店の近辺に原告本部が新店を出店したため、右フランチャイズ店の来客数や売上げが大きく減少したこと、原告が日販五〇万円以上の実績を上げられない店舗はスクラップの対象としていること、そのような閉店勧告を受けるフランチャイズ店が最近では一〇〇店を越えていること、平均的なフランチャイズ店のオーナーは家族四人で食べていけるのがやっとの生活をしていること、原告のフランチャイズ店の標準的なケースでは店舗年商が二億二〇〇〇万円あるにもかかわらず、オーナーの年間収入が七五〇万円なのに対し、オーナーが原告本部に送金するロイヤルティは年間四〇〇〇万円以上に上ること、コンビニ業界の競争の中、原告の店舗も年間一六〇店以上がスクラップされていることといった事実が摘示されていることが認められる。
これらの摘示事実を、一般読者の普通の注意と読み方をもって読めば、原告が、フランチャイズ店に対し厳しい基準を課するなど非情な対応をして収益を上げさせ、しかもその多くを原告の本部が搾り取り、店舗のオーナーにはわずかな金員しか残らないかのような印象を受けるから、本件記述(三)ないし(六)及び(八)は、原告の社会的評価を低下させているといえる。
3 本件記述(七)について
甲第二号証によれば、本件記述(七)には、原告が、米国のサウスランド社を買収したあと、日本流の「セブン商法」を導入したことに反発した、カリフォルニアやシカゴのサウスランド社のチェーン店のオーナーらが、一〇億ドル規模の損害賠償訴訟をサウスランド社、イトーヨーカ堂、原告を相手に起こしたことが摘示されていることが認められる。
右の摘示事実を、その前後も通して一般読者の普通の注意と読み方をもって読めば、原告の商法が、アメリカのチェーン店のオーナーらにとっても不満が大きく、そのため訴訟を提起されたかの印象を受けるから、原告の社会的評価を低下させているといえる。
4 本件記述(九)について
甲第二号証によれば、本件記述(九)には、本件記述(一)ないし(八)の記述内容を前提として、原告のフランチャイズ店のオーナーが原告本部に搾取され、オーナーらは客を大事にすることもなく、そのため客の店舗に対する印象も悪く、オーナーの犠牲の基に原告が非常に高い収益をあげるというもうけ至上主義のおごった商法を原告が行っている旨の論評が存在することが認められる。
右論評によれば、一般読者は、原告が利益を追い求めて、フランチャイズ店のオーナーや顧客を省みない商法を行っているかのような印象を受けるから、本件記述(九)は、原告の社会的評価を低下させているといえる。
二 争点2(本件記事の公共性、公益性)について
甲第二号証によれば、本件記事は、日本の小売業最大手である原告が採っている商法と消費者の反応やフランチャイズ店の実情等について報道したものであることが認められ、これは原告のおかれている社会的立場等からすれば社会的関心の高い事実であるといえるから、公共の利害に係る事実につき、公益目的をもって執筆されたものと認められる。
三 争点3(本件記事の真実性、真実相当性)について
1 本件記述(一)について
(一) 摘示事実について
甲第二号証によれば、前記二1でも認定したとおり、本件記述(一)には、「日経ビジネス」誌が実施した消費者調査によると、原告の消費者好感度ランキングはライバルであるローソン、ファミリーマートより劣り、総合順位で四位であり、利用度ランキングでもコンビニ大手三社の中で最低であるとの記載があることが認められる。
原告は、右記述のうち、「総合順位」とは、総合ランキングを指す旨主張する。確かに、甲第四号証によれば、日経ビジネス記事中には、「業種別総合ランキング」の記載があり、これによると原告は小売業部門の二位となっているところ、「消費者の好感度ランキング」には「総合」の文字は付されていないことが認められるから、本件記述(一)中の「総合順位」は、原告が主張するように「業種別総合ランキング」の順位と解せないこともない。
しかしながら、本件記述(一)は、消費者の好感度を記述していることは明らかであるから、一般読者の普通の注意と読み方をもって読めば、「総合順位」とは、業種別総合ランキングにおける順位ではなく、消費者好感度ランキングの順位を指すと読めるのであり、業種別総合ランキングを論じたものではないというべきである。
したがって、本件において摘示されている事実は、日経ビジネス記事において、原告の消費者好感度ランキングは、ローソン、ファミリーマートより劣り四位である、同じく利用度ランキングは、コンビニ大手三社の中で最低であると記載されているとの事実である。
(二) 摘示事実の真実性について
甲第四号証によれば、日経ビジネス誌の平成一〇年二月二三日号において、「特集 フランチャイズ 光と闇」との見出しの下に、各種のランキングが掲載されており、消費者利用度ランキングではローソンが一位、ファミリーマートが四位、原告が七位、消費者好感度ランキングではローソンが一位、ファミリーマートが三位、原告が四位となっていることが認められるから、本件記述(一)については、摘示事実は真実であるといえる。
ところで、原告は、日経ビジネス記事上の消費者調査の調査方法につき、偏差が生じうるものであるにもかかわらず、本件記事では日経ビジネス記事が付記した調査方法を記載していないので引用が不正確であり、真実性に欠ける旨主張する。そして、甲第四号証によると、日経ビジネス記事には、具体的な調査方法としては、東京地域と大阪・名古屋地域に住む一〇代から六〇代までの男女それぞれ二〇〇人、合計四〇〇人に対し、主要なフランチャイズのチェーン店名を知っているかどうかを尋ね、知っている場合には利用経験と好感度を聞いたものであるため、全国展開しているチェーン店が有利になる傾向がある旨付記されており、また、甲第一三号証、証人白石陽一の証言によれば、ローソンやファミリーマートが東京地域だけでなく名古屋、大阪地域にも展開しているのに比較して、原告は東京地域の店数こそローソン、ファミリーマートの約二倍であるものの、名古屋地域には全く出店しておらず、大阪地域でも、ローソン、ファミリーマートの三分のーないし六分の一程度しか出店していないことが認められ、これらの事実からすれば、日経ビジネス誌の調査結果はその調査方法による偏差、具体的には、名古屋・大阪地域では、小売業界最大手である原告の名前は知られているものの、ライバル会社に比べ店舗数が圧倒的に少ないために利用度や好感度において低い数値が算出された可能性は否定できないと考えられる。
ところで、記事の執筆において、他の記事等から引用をする場合には、当該記事の執筆者の表現内容を尊重し、また読者に誤解を与えないように、その引用が正確であるよう留意するべきであり、引用しようとした対象が調査結果である場合には、その調査方法についても引用がなされることが好ましいことはいうまでもなく、一部のみを引用することによって、ときには引用された記事の持つ意味が歪曲されて受け取られる場合もないではない。
しかしながら、前記認定事実によれば、日経ビジネス記事の調査は、東京、大阪、名古屋という日本の三大都市圏を対象として行っており、その方法自体は日本国内の調査として格別不自然なものではなく、また、原告が名古屋地域には全く出店しておらず、大阪地域においてもローソンやファミリーマートに比較して極端に出店数が少ないことなどは必ずしも広く知られているというわけではないから、調査方法までも引用しなかったからといって、これを引用した場合に比べ、引用された調査結果の意味が異なって受け取られるとまでは認められない。
(三) 以上によれば、本件記述(一)における摘示事実の重要な部分について真実であることの証明があったといえる。よって、本件記述(一)については、被告らは不法行為責任を負わないものというべきである。
2 本件記述(二)について
(一) 摘示事実の真実性について
乙第一号証によれば、雑誌「激流」平成七年一〇月号に、コンビニチェーンの取引先メーカーの中間管理職がコンビニチェーンの実力、将来性について語る匿名座談会の形式を採った記事が掲載され、右記事中には、座談会の参加者の一人が、自分の会社の調査においては、原告の店舗のイメージとして、店内が明るくてきれいという声がある反面、看板が暗い、ダサい、おでんのにおいが臭いという意見が圧倒的に多かったと発言した旨の記載があることが認められる。
しかしながら、右事実によっても、右匿名座談会において、ある会社の調査において原告の店舗についてはおでんのにおいが臭いとの意見が多かったというにとどまり、どのようなアンケート調査が行われたのか不明であるし、その調査が信頼するに足るものかについても何ら手掛かりがないのであるから、これをもって、流通専門誌の調査で「おでん臭い」などのアンケート結果が出たということにはならない。また、証人大沼雄次は、右のおでん臭いという点を含め、「接客が横柄」、「暴走族のたまり場になっている」との本件記述(二)の摘示事実については、右「激流」のほか、日経流通新聞や流通サービス新聞といった業界専門誌などのアンケート調査、聞き取り調査にも基づいており、また、本件記事の執筆者が路上で聞き取り調査をした結果にも基づいている旨証言するが、同証人は、他面、アンケート調査を行ったとされる業界専門誌の特定の記事を指摘しないばかりか、本件記事の執筆者が行ったという調査の具体的方法や具体的な調査データについても聞いていない、提出できないと述べるにとどまっているのであって、他に証人大沼の証言を裏付ける証拠もない以上、同証人の証言は信用するに足りないといわざるを得ない。
したがって、本件記述(二)の摘示事実についてこれが真実であることの証明はないといわざるを得ない。
(二) 摘示事実の真実相当性について
前述のように、本件記述(二)の根拠となった資料、情報につき、具体的に立証がなされていない以上、本件記述(二)の摘示事実を真実であると信じるにつき相当の理由があったと認めることはできない。
(三) したがって、本件記述(二)について、被告らは不法行為責任を負うものというべきである。
3 本件記述(三)について
(一) 摘示事実の真実性について
証人大沼雄次は、本件記述(三)の内容は、本件記事の執筆者が、平成一〇年四月三日と一一日に、現役オーナーから直接取材をした結果として執筆したものであり、本件記事の執筆者は、流通ジャーナリストであるが、特に平成八年ころから、イトーヨーカ堂、原告をウオッチしてきており、原告らに関するあらゆる新聞記事をフォローし、イトーヨーカ堂関係者、同社元幹部、元コンビニオーナーらいずれも数名に繰り返し取材している旨証言する。
しかしながら、同証人は、本件記述(三)において取り上げられているオーナー及びその店舗について具体的にどのような取材が行われたのかについては、本件記事に記載されている以上の内容は、取材源の秘匿にかかわるため明らかにすることはできないと述べている。しかし、取材源を完全に明らかにしなくとも、一定の限度で情報を明らかにすることは可能なのであるから、取材源の秘匿を理由に取材内容を明らかにしない以上、それによる不利益は真実性、真実相当性につき立証責任を負う被告らが負担すべきであるところ、他に本件記述(三)の内容が真実であること、あるいはその内容が真実であると信じるにつき相当の理由があったことを認めるに足る証拠はない。
なお、甲第五号証、証人白石陽一の証言によれば、原告の店舗の中で、<1>都内に所在し、<2>最近当該店舗から五〇〇メートル先に原告の本部が新店を出し、<3>右新店が駅前に立地するとの条件に該当する店舗は、練馬富士見台店であったところ、本件記事が出版された後の平成一〇年五月二日ころ、原告のオペレーション本部所属の東京ゾーンマネジャーである古屋一樹が、右店舗のオーナーと面談したが、右オーナーから被告選択出版をはじめとした雑誌社等の取材は一切受けたことがなく、売上げは厳しいけれども、新店が出店した影響とは考えていないとの話を聞いたこと、練馬富士見台店の売上げは、右新店が出店したことによる影響はなかったものの、その後、平成八年に近隣に新駅ができたために乗降客の流れが変わり、これまで平均の日販が五〇万円であったものが、四〇万円台に落ちたこと、練馬富士見台店のオーナーの勤務シフトは平日は深夜勤務のみ、土日は昼間勤務のみのシフトとなっており、睡眠時間がとれないとか、過酷な勤務を強いられているということはないことが認められる。また、乙第三号証によれば、「アエラ」昭和六三年五月三一日号の記事に、原告のフランチャイズ店の現オーナーないしは元オーナーの発言として、オーナーの過酷な勤務状況が掲載されていることが認められるが、本件記述(三)においては、ある特定のオーナーの発言として特定の店舗についての具体的な内容が摘示されているのであるから、他の店舗の状況がどのようであろうと、これをもって真実性の立証に代えることはできないし、右事実のみから摘示事実を真実であると信じたことが相当であると認めることもできない。
(二) 以上によれば、本件記述(三)については、その摘示事実が真実であることも、またこれを真実であると信じるについて相当の理由があることも認められないから、被告らは不法行為責任を負うものというべきである。
4 本件記述(四)について
(一) 摘示事実の真実性について
本件記述(四)を一般読者の普通の注意と読み方をもって読んだ場合、原告では社内の制度として、日販五〇万円以上の実績を上げられない店舗をスクラップの対象としているとの事実の摘示があると解釈される。そして、甲第九号証、第一〇号証によれば、スクラップという言葉は、くずや破片を意味する言葉であることが認められ、また、経験則上、一般社会においても同様な意味で用いられているといえる。しかしながら、他面、本件記述(四)においては、「スクラップ(閉店及び店舗移転)」との記載がされているところ、店舗移転は、従来店舗の閉鎖と新規店舗の開設を意味するものと解されるから、店舗移転も広い意味では閉店の一つということができなくはなく、誤解を招きやすい表現ではあるが、店舗移転を含めてスクラップと表現したとする被告らの主張もあながち不当とはいえない。
そこで、本件記述(四)に用いられたスクラップという言葉に店舗移転の意味も含むものとして、以下検討すると、甲第五号証、第六号証、証人白石陽一の証言によれば、原告において、日販五〇万円以上の実績を上げられない店舗はスクラップ(閉店及び店舗移転)の対象とする社内規定も、また、閉店又は店舗移転を勧告する制度も、そのような実態も存在しないことが認められる。証人白石陽一は、原告の店舗の全国平均日販が六八万円であることから、日販五〇万円を下回る店舗には経営指導等を行うことがある旨供述するけれども、これをもってスクラップについての内規があると認めることはできない。
したがって、本件記述(四)の摘示事実が真実であるとは認められない。
(二) 摘示事実の真実相当性について
証人大沼雄次は、本件記述(四)の内容も、本件記述(三)の内容と同じく、本件記事の執筆者が、平成一〇年四月三日と同月一一日に、現役オーナーから直接取材をした結果として執筆したものであること、本件記事の執筆者は、流通ジャーナリストであるが、特に平成八年ころから、イトーヨーカ堂、原告をウオッチしてきており、原告らに関するあらゆる新聞記事をフォローし、イトーヨーカ堂関係者、同社元幹部、元コンビニオーナーらいずれも数名に繰り返し取材している旨供述するけれども、具体的な取材内容についての供述はなく、この点につき原告に対して取材がなされた事実も認めることができず、その他に、本件記述(四)の内容につき、十分な取材がなされたことを認めるに足る証拠はない。したがって、本件記述(四)の内容が真実であると信じたことについて相当な理由があったことを認めることはできない。
(三) したがって、本件記述(四)について被告らは不法行為責任を負うものというべきである。
5 本件記述(五)について
(一) 摘示事実の真実性について
(1) (1) について
前項における認定事実及び甲第五号証、第六号証、証人白石陽一の証言によれば、平成一〇年二月期決算において原告の店舗のうち、閉店をした店舗は六二店舗(うち、中途での解約によるものが四五店、期間満了によるものが一七店。)あり、立地移転(旧来の店舗を閉店して、新立地において開店するもの。)したものが一〇一店舗あること、原告において、日販五〇万円以上の実績を上げられない店舗はスクラップ(閉店及び店舗移転)の対象とする社内規定も、また、同様の勧告制度も、そのような実態も存在しないことが認められる。
以上からすれば、原告のフランチャイズ店につき、閉店又は店舗移転の勧告を受ける店主は一〇〇店を優に超えるとの摘示事実が真実であると認めることはできない。
(2) (2) について
本件記述(五)の摘示事実のうち争点(2) としてあげられる部分には、原告の平均的なオーナーの姿は、家族四人でどうにか食える程度で、店の拡張は夢のまた夢である旨の記述が存在するが、これを一般読者の注意と読み方をもって解釈すれば、原告の平均的なオーナーは、非常に経済的に苦しい生活を送っているとの事実摘示が存在すると考えられる。
そこで、これを前提に検討すると、被告らは、本件記述(五)の内容は、本件記事の執筆者が日常的に原告のフランチャイズ店のオーナーから聴取していた内容であると主張し、証人大沼雄次も、本件記事の執筆者が四〇ないし五〇人のオーナーから取材した際に、そのうちの多くの人々から摘示されているような内容の発言を得ることができた旨証言するが、右取材が適切に行われ、右のようなオーナーらの発言が実際にあったのかにつき、大沼証人は、具体的な取材方法等につき証言しないから、右証言は直ちに信用し難く、他に前記摘示事実が真実であることを認めるに足りる証拠はない。かえって、甲第六号証、第八号証、第一四号証の一ないし一〇、乙第五号証、証人白石陽一の証言によれば、原告のフランチャイズ店においては、全加盟店の七割を占めているAタイプオーナー(店舗用土地建物をオーナー側が用意するタイプ。)につきモデル試算をした場合、年商二億二〇〇〇万円とすると、オーナーの年間収入は、一九〇〇万円余であり、一方、原告の加盟店の約三割を占めるCタイプオーナー(店舗用土地建物を原告側が用意するタイプ。)につき、同様のモデル試算をした場合、年間収入が七五〇万円となること、以上の事実が認められる。
したがって、本件記述(五)の摘示事実を真実であると認めることはできない。
(二) 摘示事実の真実相当性について
被告らは、本件記述(五)の内容につき、多くのオーナーからの取材と、平成一〇年二月期決算における原告発表の数字に基づいている旨主張する。
しかしながら、平成一〇年二月期決算の数字とは、閉店及び立地移転を行った店舗等についての数値であり、被告らのいう閉店勧告を受けたかどうかとは直接の関連がない。大沼証人は、勧告を受けずに自発的に閉店などを行うオーナーはあり得ないと考えたので、そのように記述したと供述するが、閉店又は店舗移転の勧告という制度が原告に存在しないことは前記のとおりであり、また、これまでの検討と同じく、大沼証人は、本件記事の執筆者の、オーナーらへの取材の具体的方法、内容について供述しないから、それらの取材から本件記述(五)における摘示事実を真実であると信じたことが相当であったと認めることはできない。
また、被告らは、原告のフランチャイズ店の元オーナーの妻が原告に対して提起した訴訟の判決(乙二)において、オーナーの生活が苦しい旨の事実認定がなされている旨主張するけれども、右判決では、当該事案においては、オーナー側の店舗の経営方針や、オーナーのり病等の問題もあって、一月に一〇万円台の収入しかなかったこともあったことを認定しているにとどまり、右判決が存在するとしても、およそ一般的にみて原告のフランチャイズ店のオーナーの生活が苦しいとの証左になるとはいえない。
(三) したがって、本件記述(五)の摘示事実を真実であると信じたことが相当であるとは認められず、被告らは、不法行為責任を負うものというべきである。
6 本件記述(六)について
(一) 摘示事実の真実性について
甲第六号証、第八号証、乙第五号証、証人白石陽一の証言、証人大沼雄次の証言によれば、本件記述(六)に記載された数値は原告のオーナー希望者が参加する説明会において配付される資料(この資料の表紙には、Cタイプオーナー説明会との記載がある。)に記載されているものであり、その内容は、店舗用土地建物を原告が用意するCタイプについてのモデル試算であること、Cタイプは原告の全加盟店中の約三割を占めていること、原告のフランチャイズ店においては、店舗用土地建物をオーナーが用意するAタイプが全加盟店の七割を占めていること、Aタイプについて前記のようなモデル試算をした場合、年商二億二〇〇〇万円とすると、オーナーの年間収入は、一九〇〇万円余であり、オーナーが原告の本部に支払うロイヤルティーは二七〇〇万円余となること、以上の事実が認められる。
右認定によれば、原告における店舗の経営形態として標準的なのは、その七割を占めるAタイプであるところ、本件記述(六)において標準的であるとして提示されている数値は約三割を占めるにすぎないCタイプの店舗についてのものであるから、本件記述(六)の摘示事実が真実であるとは認められない。
なお、被告らは、雑誌「選択」の読者にとって標準的なケースが、Cタイプであると判断してこれを標準的なケースであると表現した旨主張するが、雑誌「選択」の読者が、いわゆる脱サラ志望の人々や、営業用不動産や商権を有しない人々に限定されているのであればともかく、証拠上そのような事情が認められない以上、摘示事実の内容は一般読者の普通の注意と読み方を基準に判断すべきであり、その見地から本件記述(六)を読めば、標準的なケースとは、原告の店舗において一番多くみられる経営形態をいうものと解されるから、被告らの主張は採用し難い。
(二) 摘示事実の真実相当性について
証人大沼雄次の証言によれば、被告らは、本件記事の取材の時点から原告のフランチャイズ店において、Aタイプの店舗数の方が多いことを認識していたことが認められる。前述のとおり、大沼らとしては、読者にとっての標準的なケースはCタイプであると判断して本件記事を執筆、掲載したことが認められるが、右判断が合理的とはいえないことは前記のとおりであり、以上の事実からすれば、本件記述(六)の摘示事実について、被告らにつきこれを真実と信じるにつき相当の理由があったとはいえないというべきである。
(三) したがって、本件記述(六)について、被告らは不法行為責任を負うものといわざるを得ない。
7 本件記述(七)について
(一) 摘示事実の真実性について
甲第六号証、第七号証、第一六号証の一、二、第一七号証の一、二、証人白石陽一の証言によれば、原告をはじめとしたイトーヨーカ堂グループがサウスランド社を買収したのは、平成三年三月であること、平成五年八月にカリフォルニア州地方裁判所へ提訴されたOFFF訴訟においては、カリフォルニア州のセブンイレブンオーナーの団体が、サウスランド社、イトーヨーカ堂、原告や、米国の食料品、清涼飲料メーカー等に対し、<1> サウスランド社が昭和六二年より、メーカー、問屋から受け取った手数料について、フランチャイズ契約上はオーナー側に配分すべきであるのに、これを配分せずに利得を得たとの契約違反の主張、<2> サウスランド社が、オーナーらには未知の時点から、飲料メーカーと共謀して、価格協定をしたことなどが法令に違反する旨の主張などをしていること、平成六年四月にシカゴ連邦地方裁判所に提起されたスパラノ訴訟においては、やはりセブンイレブンオーナーらが、サウスランド社、イトーヨーカ堂、原告ら、サウスランド社の幹部らに対し、<1> 昭和六三年以降、サウスランド社が負担すべき店舗の保守修繕費、改装費用が未払であるとの契約違反、<2> 昭和六二年以降、サウスランド社の幹部が同社の財務内容を悪化させたことによる会社役員に対する信任義務違反、<3> 昭和六三年以降、加盟店から本部へと納入された、加盟店の支援に使用されるべき金員の不当な留保などを主張したものであること、これら両訴訟においては原告やイトーヨーカ堂については、訴えの取下げや、訴え却下の判決により訴訟が終了し、原告やイトーヨーカ堂は何ら責任を問われなかったこと、これらの訴訟を解決するためにイトーヨーカ堂の伊藤雅俊名誉会長が訪米してオーナーたちを説得した事実はないこと、以上の事実が認められる。
右認定事実によれば、米国において両訴訟が提訴されたのは、サウスランド社が原告らによって買収される以前から行っていた行為についてであって、日本流の「セブン商法」導入などは訴訟の理由となっていないこと、伊藤名誉会長が訪米してオーナーたちを説得し、両訴訟を解決しようとしたことはないことが認められ、本件記述(七)における摘示事実につき、これが真実であることの証明はない。
(二) 摘示事実の真実相当性について
被告らは、東洋経済記事及び原告への取材により、本件記述(七)の摘示事実を真実であると信じた旨主張するところ、乙第六号証によれば、週刊東洋経済誌の平成七年五月二七日号の記事に、原告、イトーヨーカ堂が買収したサウスランド社のフランチャイズ店のオーナーのうち、カリフォルニアやシカゴのオーナーたちが、店舗発注のわずらわしさ、広告費の削減、オーナーの取り分の少なさに不満を鳴らし、訴訟を起こしたこと、シカゴの訴訟では訴訟の原告らはサウスランド社、イトーヨーカ堂、原告に対し一〇億ドルの損害賠償を求めていると記載されていることが認められる。
しかしながら、他の報道機関の報道が存在するからといって、その記事内容を真実であると信じたことが相当であるとはいえないのであり、他の手段によって、右内容が真実であるかどうかを確認しなければならないものである。大沼証人は、平成一〇年四月二二日、原告の広報室総括マネージャーである秋山英敏(以下「秋山マネージャー」という。)に対し、アメリカでセブン商法が問題となっているといって、訴訟の経緯、内容について質問をしたが、明確な回答が得られなかったため、摘示事実を事実上認めたものと理解した旨供述するが、右のような質問の仕方では、原告側としても、被告らがアメリカの訴訟についてどのような点を取材しようとしているのかが不明であり、秋山マネージャーが明確な否定の回答をしなかったとしても、それが米国において日本流のセブン商法が問題となっている訴訟が存在することを肯定したと解することはできない。また、被告らは、両訴訟の解決に伊藤名誉会長が尽力したことについては、執筆者が流通業界他社の多くの関係者から取材をして得た結果を記載したものである旨主張し、証人大沼雄次の証言にはこれに沿う部分が存在する。しかし、右証言は、取材源の秘匿であるとして、その取材の具体的態様(日時、方法等)につき何ら触れていないものであり、この点についても、右摘示事実が真実であると信じるにつき相当な理由があるといえるだけの取材等が行われたと認めることはできない。そのほかに被告らが本件記述(七)の摘示事実について十分な取材を行ったことを認めるに足りる事実はない。
したがって、本件記述(七)については、その摘示事実を真実であると信じるにつき、相当な理由があったことを認めることはできず、被告らは、不法行為責任を負うものといわなければならない。
8 本件記述(八)について
(一) 摘示事実の真実性について
本件記述(八)における摘示事実は、原告では、平成一〇年二月期決算において、年間一六〇店以上をスクラップしているというものであるところ、前記4で検討したとおり、スクラップとは本件記事においては店舗の閉店及び店舗移転を意味するものと認められることは前記のとおりである。
そして、前記5における認定事実によれば、平成一〇年二月期決算において、原告の店舗のうち、閉店をした店舗は六二店舗(うち、中途での解約によるものが四五店、期間満了によるものが一七店。)あり、立地移転したものが一〇一店舗あることが認められ、これによれば、摘示事実は真実であるといえる。
(二) したがって、被告らは、本件記述(八)については不法行為責任を負わないものというべきである。
9 本件記述(九)について
本件記述(九)は、本件記述(一)ないし(八)などに摘示されている事実を前提として、原告の商法に対し、論評を加えた記述である。そして、前提となっている事実である本件記述(一)ないし(八)のうち、本件記述(一)及び(八)を除いた部分については、これまでの検討のとおり、いわゆる真実性ないし真実相当性が認められないのであるから、被告らは、論評の前提事実の重要な部分について、それが真実であるか、あるいは真実であると信じるにつき相当な理由があったことの立証がないというべきであり、被告らは、不法行為責任を負うものといわざるを得ない。
四 争点4(賠償額等)について
1 前項において検討したところによると、本件記事は、そのほぼ全体において、既発表の記事等を不正確、不適切に引用するなどして、原告の店舗は消費者のイメージがよいとはいえないこと、フランチャイズ店のオーナーが苦しい経営を余儀なくされる一方、原告の本部が高収益をあげていること、アメリカにおいては、原告の商法に対しフランチャイズ店のオーナーが反発し訴訟を提起したことなど、真実とはいえない事実を前提として、「『セブン-イレブン商法』残酷物語」の題名の下に原告の商法を批判する内容が記述されているのであって、原告の社会的信用を毀損するものになっているといえる。しかしながら、反面、本件記事は、業界ナンバーワンの企業である原告に対するいくつかの観点からの批判になっているのであって、殊更に虚偽の事実を摘示したものとまでもいえず、原告の社会的信用に対するダメージもさほど甚大であるとはいえない。これらのことに本件に現れた諸般の事情を併せ考慮すると、本件において被告らが賠償すべき慰謝料は一五〇万円と認めるのが相当である。
また、弁論の全趣旨によれば、原告が本訴の提起・追行を原告訴訟代理人に依頼したことが明らかであるところ、被告らの不法行為と因果関係がある弁護士費用としては三〇万円をもって相当と認められる。
なお、原告は、被告らが度々名誉毀損行為を行っているにもかかわらずこれを改めない点及び本件記事後も、甲第一一号証、第一二号証などの雑誌「選択」上の記事において、原告の企業グループや代表者に対する誹謗中傷記事を掲載している点を指摘するが、右記事は、あくまでも原告会長であり、イトーヨーカ堂社長である鈴木敏文の経営手腕などを批判する内容のものであり、これらの記事が発表されたからといって原告の名誉が毀損されるものではないから、本件とは関連がないものであるし、これらの記事が原告の主張する意趣返し的報道かどうかは必ずしも明らかではないから、賠償額を考慮する上ではしんしゃくしない。
2 次に謝罪広告について判断するに、謝罪広告は、その性質上、名誉回復のためにその必要性が特に高い場合に限って命ずるのを相当とする措置であると解すべきところ、本件記事が原告の社会的信用に対してさほど甚大なダメージを与えたとはいえないことは前記のとおりであるから、損害賠償の支払に加えて、謝罪広告を必要とするとまでは解されない。
五 結論
以上によれば、原告の請求は、被告らに対し、各自一八〇万円とこれに対する本件訴状送達の日の翌日(被告選択出版株式会社については平成一〇年六月一六日、被告飯塚昭男については平成一〇年六月一七日)から各支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容することとし、その余の請求は理由がないからこれを棄却することとする。
よって、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 大橋弘 裁判官 野村武範 裁判官 西口元は、転補のため、署名押印することができない。裁判長裁判官 大橋弘)
別紙一、二<省略>